騎士子物語


第一話

私の家は代々STR-VIT槍騎士の家柄だ。
若かりし時の父は仲間からも信頼された立派な槍騎士だったと聞いた。

長い修行を積んだ私が騎士になった時はとても喜んでくれた。
そして父から騎士のたしなみとしてエラヘルムケインを渡された。

父「騎士はDEFが重要なんだ。これを餞別としてやろう」
騎士子「いらない」
父「な、なんだと」
騎士子「かわいくないもん。」
父「おまえ、なんだその花びらは。ちゃらちゃらしおって!」
騎士子「お小遣いで買ったんだもん。かわいいでしょ?」

父は高DEFと高VITで仲間を守ることの大切さと、装備の重厚さで騎士の強さと気品を醸し出すのだとかなんとか懇々と語り始めた。
根は良い父だし尊敬もしているのだけど、ヘルムの曲線がたまらんとかエラの色艶の良さについて少年のような瞳で語られても困る。

父「顎を守るこのケインの鈍い光の照り返しなんかもう…」

もうだめだ。ついていけない。

騎士子「あのね、私、両手AGI騎士になるの」
父「そうかそうか。それでプレートはやっぱりイズルード製の…む…なんだと?」
騎士子「両手AGI騎士になるからそんな装備しないの」
父「それは許さん!槍スキルの良さが分からんのか!代々槍で名を馳せてきたご先祖に申し訳が立たぬ!」
騎士子「家はお姉ちゃんが継いでくれるよ。お姉ちゃん、この前のBds選手権で優勝したんだし」

お姉ちゃんは愛鳥のペコと狩りに出て修行しているSTR-VIT槍騎士だ。
槍の腕では全盛期の父に勝るとも劣らないともっぱらの評判で臨時PTにもよく呼ばれる。
本当によく出来た姉で逆に私はそれが気に入らない。

父「両手騎士募集の臨時なぞは無いんだぞ!誰かを守ってこそ騎士なのだ。」
騎士子「わ、私はストイックに剣を極めるの。ペコにも乗らないからね。」

それから父はペコに乗らずにふとももで男を誘惑するのかとか恥ずかしい娘だとか槍でなければ勘当するとまで言い出した。
お互い言い争いになって帰って来たお姉ちゃんが仲裁に入りやっと収まった。



夜明け前。
私は家を出ることにした。そして部屋の扉をそっと開けた。
すると扉の前に私宛の封筒と包んであるサンドウィッチ、横にランスとクレイモアが一本ずつ置かれてあった。
封筒の中にはお姉ちゃんの文字で書かれた手紙がありこう書かれていた。

「このランスとクレイモアは生前の母が使っていた物です。あなたが生まれたころに母は死んでしまいましたし父も語るのを嫌がっていたので知らないと思いますが、母は両手剣と槍のスイッチの名手だったそうです。この武器があなたを守ってくれると思います。」

封筒にはお金も入っていたし、お姉ちゃんが書いたであろう「槍の心得」という槍の扱いについての文面も入っていた。 本当に良く出来た姉で嫌になる。大嫌いなんだから。ほんとに嫌いなんだから…
ランスとクレイモアが私から落ちた雫で濡れていく。顔を拭いながら母の形見を背負った。

サンドウィッチを食べながら静かに町を出た。美味しい。
私はゲフェンに向かうことにした。
「ピアースでの足の踏み込みについて」という記述を読みつつ足の運びを練習しながら。


第ニ話


'--------仮面の騎士--------
私の名前を知るものは居ない。
長い黒髪と闇に溶け込むような色あいの鎧、顔を覆い隠すゴブリン族の仮面を身に付けた私を依頼人は単に仮面の騎士と呼ぶ。

月明かりのゲフェン東。
商人、そして護衛の剣士2人とプリーストを斬った鈍く光る刃から生暖かい血が滴り落ちた。
返り血が黒い鎧に映える。その赤と黒のコントラストが私を恍惚とさせる。
仮面の下に隠れている古傷も癒えていくような良い気分だ。

私は足元に倒れている商人のカートを探り目的の物を取り上げた。
これがカプラヘアバンドか。
陰惨な殺害の場と、品のあるかわいらしい高価な品物との似合わなさに思わず笑みがこぼれてしまう。
依頼を完了させた私は早々とこの場を去ることにした。

「カサッ」

足音がした。
咄嗟に木の陰へ身を潜める。

「カサカサッ」

もっと手早く仕事を進めるべきだった、と悔やむ心とは裏腹にその足音への興味が湧いた。
それは普通に歩いている音ではなく、踊りのような一定のリズムで聞こえてきたからだ。
気配を殺して音のする方向を見て私は納得した。
それは一人の女騎士だった。技を練習しているのかランスを構えながら歩いていた。
あの槍の技はピアースだ。私の顔に傷をつけた女槍騎士を思い出した。
彼女は私の仕事の邪魔をした唯一の槍騎士だ。
負けるとは思わないが、またやりあうのは気が進まない相手である。
あれ以来、槍騎士を見ると虫酸が走ようになった。

だんだんと足音が近づいてきた。
女騎士は倒れている人間に気づいたらしくこちらに駆け寄ってくる。
そして地面に片膝をつきプリーストへ向かって心配そうに何事か語りかけた。

私はその女騎士を始末することにした。
槍騎士の臓物を切り裂き、悲鳴をゆったりとした気持ちで聴くことが私の救いになる。
私はバスタードソードを構え斬りかかった。


'--------騎士子--------
何が起きたんだろう。
森の中で、なんでみんな血を流して倒れてるんだろう。

騎士子「プリさん!」

必死で声をかける。

プリースト「う…しろ…」
騎士子「!」

かわしきれず背中に衝撃が走る。

仮面騎士子「ちっ!」

しまった。気付かなかった。
お姉ちゃんならこんな隙は見せなかったよね、なんて考えた。
武器を…武器を取らなくちゃ…私だって騎士なんだから…
使い慣れたクレイモアを握る。痛みを我慢しながら相手の方を向いた。
月明かりの下、闇に溶け込む長い髪と仮面が見える。
今は誰も助けてくれる人は居ない。自分の剣で生きていかなくちゃ…
私は精神を集中させて両手剣の持つ力を解放させた。
「ツーハンドクイッケン!」


'--------仮面の騎士--------
もう一太刀浴びせようと踏み込む。
相手がこちらに向いた。
女騎士の顔を見た途端、前に進めなくなった。仮面の下の傷がうずく。
まさか…あいつか?
女騎士がこちらに向かってくる。
なぜ私をひるませたあの槍の技を使わずにクレイモアを手に取るのだ?
別人なのか?
やや幼く見えるような気もするが…

プリ男「速度増加!」

わずかな気の迷いが私の隙を生んだ。
一呼吸で女騎士はこちらの間合いまで踏み込んできた。

騎士子「はっ!」

仮面が割れた。手で顔を押さえる。
このままやりあうのは得策ではない。依頼は達成している。
私は引くことにした。

仮面騎士子「次に会うときは槍で来い!」

あいつの体を槍ごと両断してこそ私は救われるのだ。


'--------プリースト--------
今回の仕事は嫌な予感がしたんだ。
なんであんな凄腕の有名人に俺が襲われちゃうんだよ。
倒れて無様に転がっている俺の横に騎士が座り込んでるよ。

お…ミニスカが…そばに…はぁはぁ…

騎士子「息が荒いですよ!大丈夫ですか!」

騎士の足がやや崩れてむっちりした太ももと刺激的なその奥があらわになる。
見える…見えるぞぅ…太ももの奥が…

騎士子「ああ!そんなに目を見開いて!苦しいんですか!」

こんなかわいい騎士子とパーティー組んでくみてぇな…
俺の速度増加で勝てたんだから…
ちょっとだけ揉ませてくれねぇかな…はぁはぁ…

騎士子「プリさん!プリさん!」

俺…死ぬの?
やだな…
この娘のミニスカに手つっこみてぇな…
あれ…
なんか目の前が暗くなっ…

騎士子「あ、イグ葉!イグ葉!」

俺が目覚めた時、どこかの宿のベットだった。夢なのか現実なのかはっきりしない。
横を見ると騎士子が立っていた。

騎士子「もう大丈夫ですか?」

こんなかわいい娘が居るんだ。
ここがあの世だろうがどこだろうが構わないさ。


第三話

'--------騎士子の実家--------
騎士子の姉「あ!」
思い出した。なんで忘れてたんだろう。
急いで町に出かけて本屋さんに向かう。売り切れる前に買わなくてはならない。

本屋の親父「おや、いらっしゃい」
騎士子の姉「あの本まだありますか?」
本屋の親父「あんたが買うと思ってちゃんと取っておいたよ」
騎士子の姉「わぁ、ありがとう」
本屋の親父「しかし、槍を持つとおっかないあんたがこんな本を読むとねぇ」
騎士子の姉「おっかないは余計です」
本屋の親父「はは、悪い悪い」
騎士子の姉「父には内緒ですよ。そんな本を読む暇があったら鍛錬しろって言われますから」
本屋の親父「わかったよ。またよろしくな」

今ならまだ父は帰ってきていないはずだ。ゆっくり読める。
私は部屋に戻り、かわいらしい熊の絵が描かれた本を開いた。この本はヌイグルミ作家の作品を公開している。
私は丸々したポリンやお茶目なロッカーのページをうっとりと眺めた。
最近の号では今年のブームになった熊がメインに特集されている。
この本には熊のイラストの横に「面白い文を一言」書いて投稿する人気コーナーもあるのだ。
私はこのコーナーの常連だ。ベアナイトというペンネームで投稿している。
そういえば新しいネタを書いた紙、どこに置いたかな…

騎士子の父「ただいま…」

父が帰って来た。妹が家を出てから元気が無い。

騎士子の姉「おかえりなさいっ」

できるだけ元気な声で父を迎えてあげる。
妹が家を出て一週間になる。どうしてるだろう。元気だろうか。
妹はわたしの事を避けることが多かったように思う。
槍の修行やペコの世話ばかりしていて姉らしいことはしてあげられなかったかもしれない。
どうすれば姉らしいか、なんてことも分からないままだったけれど。
妹は何かと反抗的で近所の人に陰口を言われていたし父にもよく叱られていた。
今考えるとあれは妹なりの自己防衛だったのかもしれない。

父と二人きりの家はぽっかりと穴が開いてしまっているようだ。
正直に言うと私は寂しいと思っている。父もそうだろう。
私の書いた「槍の心得」が少しでも役に立てばいいのだけど。


'--------騎士子(ゲフェンの町の噴水広場)--------
「………」
なんだろう。これ。
ベンチに座りながら空を見上げた。
前のページに戻ってもう一度読む。

槍の心得 範囲攻撃について
騎士は複数の敵と戦う場面があります。
その場合の手段としてはボーリンバッシュとブランディッシュスピアの選択肢があります。
どちらかを選ぶかは使い手の得意なスキルによって変わるでしょう。そこで、


深呼吸して次のページに進む。















   ∩___∩
   | ノ      ヽ
  /  ●   ● |   スタブ10
  |    ( _●_)  ミ
 彡、   |∪|  、`\  マジお薦め。
/ __  ヽノ /´>  )
(___)   / (_/
 |       /
 |  /\ \
 | /    )  )
 ∪    (  \
       \_)

   ベアナイト

「………」

これ…
お姉ちゃんの字…だよね…
以前、お姉ちゃんはスタブで敵を上手にまとめてたのを見たことはある。
あのとき相手はお手玉されて何もできずに地面に突っ伏してた。

でも…ベアナイトって…
範囲攻撃ってスタブが良いの?
それにこの熊さんは何?
熊相手に練習しろってことなの?
私は「????」で一杯になった頭を抱えて夕方までベンチに座り込むことになった。


'--------ゲフェン噴水カプラ前--------
今日も露店でお金を稼ぐ。もうすぐ二人目の子供が産まれる。
妻には少ない稼ぎしか渡せずいつも申し訳ない気持ちで一杯になる。
プロンテラまで行って仕入れてきたミルクが売れていく。

商人夫「毎度ありがとうございます」

製造BSを目指している私は、
「いつの日か子供達や妻に自分の銘入りの武器を渡したい」
そう考えると頑張る気持ちが湧いてくる。

アコ妻「あなた!」

ポニーテールを揺らしながら妻が青い顔をして私の元へ来た。

商人夫「何かあったのかい?」
アコ妻「うちの子が、ゲフェンの塔に行ったきり帰ってこないのよ!」

私は商品のミルクを数本落として割ってしまった。
呆然としている私の耳へ妻の言葉が途切れ途切れに聞こえてくる。
どうやら子供達が探検ごっこと称して塔の中へ入ったらしい。
地下へは冒険者しか行けないように出入り口には管理人が居るのだが、
管理人が所用で目を離した隙にこっそりと地下へ行ったそうだ。
そして魔物に驚いた探検ごっこのメンバーがちりぢりに逃げ、
うちの子だけが帰ってこないという妻の話が遠く彼方から聞えてくる。

アコ妻「どうすれば…」

身重の妻と製造BSを目指す私では荷が重い。
誰か…誰か…

商人夫「!」

私は難しい顔をしてベンチに座っている女騎士の元へ自然と走っていた。


第四話


'-------- プリースト --------

俺は大聖堂の前に捨てられていた子供だと聞いた。
そして自然とアコライトとして育てられることになった。

神に仕えているといってもみな聖人君子ではない。
男の冒険者をたらしこみ楽して生きる女アコライトも見てきた。
恋敵の剣士を始末するためにその邪魔な剣士とペア狩りをし、ダンジョンの奥地でわざとヒールを
遅らせて剣士を見殺しにするやつも居た。

反吐が出る。
俺は自分一人でも生きていける選択をした。そう、俺は殴りプリだ。
チェインが友達。魔法は自分のために。気ままに生きていく。
夕飯にエール酒はかかさない。

なのに。
なんでまたダンジョンの冷たい地面で倒れてるわけ?
騎士子一人だと無理だろうから病み上がりの俺も子供探しについてきた訳だが。
この子供はダンジョンを探検しに来て、魔物に出会ったとたんハエで逃げてしまい友達とはぐれたらしい。
全く迷惑なガキだ。
助けた子供が俺の横で震えてうずくまっている。

さっきまで居た敵の群れはどこだ?
騎士子は?

痛む頭を抱えながら立ち上がることにした。

プリ男「おい、そこの迷惑なガキ。これで町まで帰れ」

俺はワープポータルを開いた。

子供「…お姉ちゃんは?」

いつものように自分へ手早く速度、ブレス、キリエ、グロリア各種支援をかける。

プリ男「俺が探す。お前は帰って助けを呼べ」

血の跡が延々と続いている方向へ向かって俺は走った。
騎士子はどこだ。一体どうなんってるんだ。
横からウィスパーが獲物を求めて近づいてきた。

プリ男「そこをどけ」

俺は岩も砕けそうな勢いでチェインを叩き付けた。

'-------- 騎士子 --------

走りながら昔のことを思い出した。

半端な両手騎士の私はパーティーを組んだことが無い。
一度プロンテラの南で勇気を出して臨時パーティーを募集してみたことがある。
周りに居た、すぐウィズに拾われる支援プリーストさん。アサシンやハンター募集の声。
いつまで立っても拾われない私はただ縮こまるだけだった。

そんな私の横を数人のパーティーが通った。その中のアサシンがお姉ちゃんの名前を呼びながら
私に寄ってきた。

アサシン「お久しぶりですー。騎士団行くので前衛一人欲しいんですが一緒に狩りませんか?」
プリ「あら、こちらの騎士さんはどなた?」

私に声をかけてきたアサシンの男性は、お姉ちゃんの槍大会を優勝した経歴や以前臨時で
組んだときの見事な活躍を仲間に話して聞かせた。

ハンター「へぇ、そうなんだ」

ウィズ「それは頼もしいねー。ね、ね、一緒にやろ」

騎士子「あ…それはお姉ちゃんです。顔が似てるか時々間違われるんです…」

アサシン「あれ?そうなんだ。でも前衛は欲しいから一緒にやりませんか?」

騎士子「あの、私はお姉ちゃんみたいなSTR-VIT槍騎士じゃないし…それに両手騎士になったばかりだし…」

プリ「まあ。アサさん、両手騎士だと騎士団での狩りはちょっと不安じゃありませんこと?」

ここから逃げ出したかった。
私はなんでここに居るんだろう。
なんでこんなことを言われなきゃならないんだろう。

クルセ「VITクルセですけど、臨時ありませんかー?」

プリ「あ、クルセさーん。こちらに来ませんか?」

私はいたたまれなくなり、走ってその場をから逃げた。
人気の無いプロ南からちょっと離れた木々の間まで来て止まった。

騎士子「グス…くやしいよ……ひどいよ…」

涙が止まらなかった。

騎士子「はぁ…はぁ…」

プリさんと子供のいる場所からだいぶ離れた。もう大丈夫だろう。それにこれ以上走れない。
モンハウの魔物達を引きずった私はランスを握り締めた。
ミストが数匹寄ってくる。
私は渾身の力を込めてピアースを放った。
一体を潰す。
ピアースの間隙をぬって残りのミストが私を襲う。

騎士子「げほっ」

鎧の上から衝撃が骨まで伝わる。足の感覚が無くなってきた。
再度ピアースを叩き込んで潰す。

クレイモアに持ち替え、最後の気力を振り絞る。

騎士子「ツーハンドクイッケン!」

これが切れたらもう終わりだ。
お父さんやお姉ちゃんから聞いた言葉が頭をよぎる。
仲間を守ってこそ騎士なのだと。

騎士子「私…役に立ててるかな?そうだと嬉しいな…」


第五話

'--------プリースト--------

プリ男「ちくしょう!」

およそ聖職者の口から出たとは思えない言葉がゲフェンダンジョンに響いた。
ふらついて満足に走れない自分に腹が立つ。
早く騎士子に追いつこうと気持ちばかりあせっていた。
疲労で魔法を使う集中力が続かない。
俺は脂汗を流しながらゆっくりと奇跡を起こす言葉を紡ぎだした。

プリ男「速度…増…加…」

力ある言葉が体を包み足が軽くなる。
息を切らして体を前へ運ぶと、遠くのほうから獣のような雄叫びが聞こえてきた。
この先は崖になっていて吊り橋がかかっているはずだ。
俺はただ一つだけ強く思った。

あいつを助けたい。


'--------騎士子--------

吊り橋まで魔物を引き寄せる。
傷の痛みとクレイモアの重さにこの場で潰れてしまいそうになった。
じりじりと魔物が私を引き裂こうと近づいてくる。
私は大きく息を吐いて母の形見である大剣を構えた。
狭い橋なのでここなら一度に複数を相手にしなくて済む。

ツーハンドクイッケンの起こす風の唸りが魔物の叫びと入り混じる。
身を刻まれているにもかかわらず、魔物が心まで射るような視線を私に投げながら体当たりをしてきた。

私は後ろ足で踏ん張り衝撃を必死にこらえる。
吊り橋が悲鳴のような音を立てて激しく揺れた。
クレイモアに体を預け押し返し、返す刀で斬り捨てる。

騎士子「はぁ…はぁ…」

真っ二つにされた肉の塊の踏みつけながら、近寄ってくる次の魔物が見えた。


'--------プリースト--------

居た。

吊り橋の中央付近に、自分の血と返り血で汚れた騎士子と魔物が対峙していた。
吊り橋には斬り捨てられた魔物の死体も見えた。
騎士子と俺を挟んだ位置に魔物が数体居る。
二人でもまだきつい数だ。だが俺は騎士子を助けたい一心で走った。

プリ男「おい!すぐ行くか…」

声が出なかった。
騎士子の後ろの崖からナイトメアの集団が現れ、馬達が左右に分かれるとその間から青白い剣士がゆっくりと歩み出た。

なぜ足が動かない?
なぜ声が出ない?
なぜ彼女に近づく一歩が進めない?
剣士から漂う恐怖に支配された空気で吐きそうになる。
まるで心臓を鷲づかみにされているようだ。

騎士子も気配を察知して動きが止まった。
剣士が吊り橋を渡って騎士子に近づいてくる。
騎士子は体を半身にして剣士の方を一瞥した。
一息で自由に命の灯火を消すことすらできそうな、その剣士の話は誰でも知っている。

騎士子「私は初めてパーティーを組みました」

芯の通った、穏やかで、生命を感じさせる響きを持った声に剣士は足を止めた。

騎士子「私ってなんだろう、誰からも必要とされない私って、役に立たない私って、この世界に居ても居なくても関係無いんじゃないかって思ってました。」

騎士子は両手剣を胸の前に添えて真っ直ぐに立て、瞳を閉じた。

騎士子「いつも一人で狩ってた私は、あなたのかけてくれる支援が嬉しかった…一緒に力を合わせているんだな、一人じゃないんだなって思った…」

おい、何を言ってるんだ?

騎士子「私は…仲間を…あなたを守りたい…」

風を裂く唸りが聞こえる。
騎士子の剣が無数の軌跡を描く。

騎士子「騎士だから」

吊り橋を両断した騎士子は剣士共々奈落へと消えていった。


'--------ある館の一室--------

娘「どうして私が載ってないのよ!」

あたしはある本の人気コーナーを見て癇癪を起こした。

娘「何がスタブ10マジお勧めよ!この常連のベアナイトって誰よ!」

ドアのノックが聞こえてきた。

執事「あの、お嬢様?」

娘「何よ!」

執事「い、いえ、そ、そろそろお買い物の時間です。」

そういえば今日はランスを精錬するオリデオコンを買いに行くんだった。
質の良いオリデオコンを仕入れてくる有名な商人が久しぶりに町へ来るので
この機会を逃してはならない。

槍騎士娘「じゃあ、行くわよ!」

執事「はい、お嬢様の愛鳥のペコペコも用意してあります」

そろそろ夏恒例、槍騎士大会の時期だ。
武器の持ち込みが可なのでこの時期のオリデオコンは需要が跳ね上がって高い。
今年はあいつに負けたくない。腕は私の方が上なのよ。
あいつの武器が私より良いだけに決まってる。あたしは飾ってある準優勝の盾を睨み付けた。

執事「お嬢様はニ年連続で準優勝とは立派でございますね」

槍騎士娘「うるさいわね!準優勝って言うんじゃないわよ!」

執事「し、しつれいしました」


'--------別な館の一室--------

男「今回はオリデオコンを持ってきてもらいたい。」

仮面の騎士子「ああ…この商人ね…屈強な護衛がついてるんじゃない?」

男「無理か?」

仮面の騎士子「何を馬鹿な事を言ってるの。報酬ははずんでもらうよ」

誰であろうとこのバスタードソードの錆になる。特に槍騎士は。


第六話

'--------騎士子の実家--------
騎士子の姉 「わーいっ」

………はっ。

つい嬉しくてはしゃいだ声を出してしまった。
いけない、いけない。
父に聞かれたら、おまえは子供か?騎士はもっと仲間に安心感を与えるようにどっしりと落ち着いてだな、なんて小言を聞かされるとこだった。
今回も私のネタが載っていた本を机の引き出しにしまい込み、椅子に体を預ける。
妹が居なくなって季節が巡り、強い日差しが庭の木へ降り注ぐようになった。

騎士子の父 「すまんが、注文した鎧を取りに行ってもらえんか?」

父の声で物思いから覚めた。

騎士子の姉 「はい」

私は立ち上がり、家の扉を開け、夏の気配を感じさせる太陽の下へ身をさらした。


'--------槍騎士娘--------
執事 「お嬢様、そろそろ行かないと時間が無くなります」

槍騎士娘 「分かってるわよ!あー、ペコちゃーん」

あたしの愛するペコペコ。
抱きついてふわふわした首に頬をすりつける。
お互いが子供の頃から、ずっと一緒の仲良しだ。

槍騎士娘 「大好物の太ったミミズあげるからねー」

執事 「お嬢様、時間が…」

槍騎士娘 「良いから黙ってミミズ持ってきなさい!ぷりぷりの太ったやつよ!」

執事がぶつぶつ言いながら持ってきたミミズをペコちゃんに食べさせる。
ペコちゃんはのどを鳴らして喜んでいる。あたしも嬉しい。

槍騎士娘 「いつものようにペコちゃんにちゅーしてあげるっ」

唇でくちばしに触れる。

槍騎士娘 「さあ、行こうねっ」

あたしはペコちゃんに跨りお買い物へと出かけることにした。


執事 「お嬢様、日差しが強いですね」

槍騎士娘 「夏が近いんだから当たり前よ!で、ここ?」

あたし達は、同じ目的であろう人だかりの多い東門までやってきた。

執事 「ええ、でもおかしいですね。商人が居ません」

買い物客A 「まだ来てないみたいだよ」

買い物客B 「でもあの商人は時間には正確な人だから…おかしいね…」

まだ来てない?
さっさと買って精錬したいのに。
私は執事を手招きして呟いた。

槍騎士娘 「東門から道を進んで直接会って買うわよ。良い?ついてきなさい!」


'--------仮面の騎士子--------
中々の手ごたえだった。鎧に刺さった矢を抜く。
そして、地面に転がっている護衛の騎士、ハンター、プリーストを踏み越しながら歩み寄る。

商人 「た、助けてくれ」

事務的に腰の袋を探りポーションを取り出す。

商人 「そこの荷物は、も、持って行っていい」

ポーションを飲み干し、瓶を投げ捨てる。

商人 「だから、命だけは」

太ももが切れて流れた血を拭う。
簡単に汚れを落とし、一呼吸する。

商人 「お願いだ……ぐぉっ」

商人からバスタードソードを抜き、血を払う。
中身を調べるためにカートへ近寄った。

仮面の騎士子 「?」

遠くから声が聞えたような気がした。

男の声 「お嬢様、速すぎです」

女の声 「早くついてきなさいよ!」

目を凝らすとペコペコと槍を持った騎士の姿が見える。
腹の底から熱い衝動が込み上げてきた。
剣で槍騎士の血をすすり、飢えを、傷のうずきを鎮めよう。


第七話

'--------槍騎士娘--------

槍騎士娘 「何これ…」

血の香りと吐き気がするほどの憎悪が風に乗って流れてきた。
ペコも怯えている。

執事 「お嬢様!」

ランスを握り戦いの構えをする。

槍騎士娘 「進むよ!」


'--------仮面の騎士子--------
仮面の騎士子 「来た…」

女の槍騎士と爺さんだ。
二人とも切り刻まれた人間を目の当たりにして嫌悪の表情をしている。

感じる。体が喜びに震えている。
あの女の流れる血が見たい。

仮面の騎士子 「ツーハンドクイッケン!」

バスタードソードの力を解放した。


'--------槍騎士娘--------
槍騎士娘 「え?」

数メートルの間合いから一瞬で懐まで詰め寄られた。
かろうじて剣をランスではじいた。
両手騎士独特の剣速で空気が唸る。
繰り出される剣戟をランスで払った。

仮面の騎士子 「ははは!そうでなくては楽しめない!」

剣速が上がった。
かわしきれずに左腕へ浅く剣が入る。
脇腹やフトモモにも傷が増えていく。

槍騎士娘 「くっ…」

あたしは気づいた。 この人はわざと急所を狙っていない。
なぶり殺しにする気なのだ。
急に怒りが込み上げてきたあたしはランスを繰り出し相手を突き放した。
間合いを計り、一番の自信がある技で倒すことにした。
あたしはSTR-AGI槍騎士。このピアースの連弾を受けて無事で済んだ人は居ない。
破壊力のある無数のピアースが相手を襲のだ。


槍騎士娘 「ピアース!ピアース!」

仮面の騎士子 「何!」

これ以上無い力で仮面の騎士を突き刺した。槍を受けて仮面の騎士が倒れこむ。

槍騎士娘 「はぁ…はぁ……そんな…」

手にポーションを持ちながら、ゆっくりと仮面の騎士が立ち上がった。

仮面の騎士子 「見事だ…」

そう言って何か薬を飲み干した。私はその薬の正体に気づいて絶望した。
この仮面の騎士は今まで本気じゃなかったんだ。

仮面の騎士子 「おまえの流れる血で私を癒してくれ…」

バーサークポーションで加速された剣に反応することはできなかった。

執事 「お嬢様!」

気づいたら無数の血飛沫を上げながら、あたしは空を仰いでいた。


仮面の騎士がトドメを刺しに近寄ってくる。
あたしは涙を流していた。
大好きなペコがあたしをかばうように間に入っていたからだ。

仮面の騎士子 「邪魔な鳥だな…」

あたしはそっとペコにささやいた。

槍騎士子 「逃げて…」

ペコはあたしをかばったまま動こうとしない。

仮面の騎士子 「ふん、一緒に死ぬがいい」

プリ男 「待て」

その場の全員が声のする方を見た。

プリ男 「今度こそ俺の目の前で騎士子は死なせない」


第八話

'--------プリ男--------
仮面の騎士子 「お前は私の心の癒しを邪魔するのか?」

脳から全身に戦いのシグナルが駆け巡り四肢に力がみなぎる。
俺は手に持つスタナーを強く握り、一撃を浴びせに飛び掛った。
待ち受ける仮面の騎士が目で追えない速さで俺の体を刻む。
それに構わず間合いを詰めていく。

仮面の騎士子 「む、キリエか!ならば全て剥がす!」

魔法の障壁がどんどん削り取られていくのが分かる。
剣の軌跡があきれるほどの数で体の周辺に描かれ血飛沫が舞う。

槍騎士娘 「プリさん逃げて!」

今でも吊橋から落ちた騎士子の事を思う。
目の前に居るこの騎士子は助けたい。あと数歩持てばいい。
槍の騎士さんよ。そんなに心配そうな瞳で見るな。
どんな騎士嬢にも弱点がある。例えこの仮面の騎士であってもだ。
俺は踏み込みその一点へ向けてスタナーを振り下ろした。


仮面の騎士子 「ぐはっ」

あらわになっているフトモモへの一撃。
足がスタナーで麻痺してしばらくは動かせないだろう。
しかし、切り刻まれた俺は地面に倒れこんだ。

プリ男 「ヒール…」

仮面の騎士子 「なっ…」

槍騎士娘 「え…?」

執事 「おぉ…」


'--------槍騎士娘--------
あたしの体に光が立ち上り癒されていく。

プリ男 「ブレス…」

仮面の騎士子 「!?」

素早くランスを拾ってペコちゃんに乗る。
次々と支援魔法がかけられていく。
あたしは仮面の騎士へ長いランスを向けた。

槍騎士娘 「今夜はあたしの夢でうなされてみる?」

仮面の騎士子 「…もう一度おまえの体を斬れるのか。はははっ……来い!」



登場人物




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